「そりゃあ、レアグルーヴかな?」
音楽プロデューサー/深町健二郎
魚男が、福岡を中心に活躍する音楽プロデューサー・深町健二郎さんに独占インタビュー。魚男の料理を味わってもらいつつ、店内BGMのセレクトを担当しているTOWA TEIさんのことや、音楽と食事の関係などいろんなことを聞いてみたぜ。
<取材日時>2020年8月12日(水)
食事と街と 音楽カルチャー
——福岡会福岡支部【うどん部】での活動など、大のうどん好きで知られる深町さん。外食はけっこう多いんですか?
深町 仕事でいろんな店にロケに行くけど、実はもともと、あんまり出歩かんタイプなんよね。うどんが食べられれば幸せってくらい。でも、福岡っておいしいお店が多いから、機会あればもちろん外食もするよ。お酒は強くないからたまにしか飲まんけど、みんなで楽しく飲んでる空気は好きやね。
——お店に行くと、やっぱりBGMは気になる?
深町 やっぱり敏感になるよ。音楽でその空間の景色ができあがるから。選ぶ人の個性が出るし、店のセンスがわかるって意味でもおもしろい。
——自宅ではどんな環境で音楽を聴く?
深町 CD、レコード、ストリーミング、どれも使うよ。いつも何か音楽が流れていることが多いかな。食事するときは、食事というよりその日の気分に合わせて、今気に入ってる音楽を選んでさ。Spotifyでランダムにかけた音楽が意外と食事にマッチすることもある。
——娘さんとは音楽の話はする?
深町 音楽がまさに共通の話題やね。最近ではむしろ娘のほうがレコメンドしたり、音楽を選んだりするようになってさ。で、娘が選んだ今どきのローファイなヒップホップとかチル系曲で「いいやんこれ」って発見もあるよ。家族がバラバラに生活してても、音楽が共通点になる。コミュニケーションツールなのかもね。まあ、セレクト権はぼくにはまったくないけど(笑)
——福岡で音楽が印象的な飲食店といえば?
深町 ルーツ的には「モダンタイムズ」やろうね。80年代流行したカフェバーの走りだと思う。糸島の「サンセット」も、バーなんてない時代にレゲエとかが流れてて、ハマって行ったね。高校生の時は親不孝通りの全盛期。街で音楽に触れる時代よね。音を仕入れに行く、一種のメディア。その最前線が飲食店やカフェやったね。そう考えてみれば、お店に通いたくなるきっかけはいつも音楽やった。
フィッシュマンでの 音楽の楽しみ方
――フィッシュマンの店内BGMをセレクトしているTOWA TEIさんについて。
深町 最初の印象といえば「海外のミュージシャン」。TEIさんが加入してた「Deee-Lite(ディー・ライト)」(※1)は、当時かなり衝撃的やった。NYのクラブカルチャーに直結して、あのあたりから音楽がちょっと変わったよね。クラブとかハウスとかジャンルごとに成立してたそれぞれの音楽を、ディー・ライトが混ぜていった。エポックメイキング的に出てきたミュージシャンやね。
——TOWA TEIさんと直接のつながりは?
深町 2年くらい前に、親不孝通りにあるクラブ「キース・フラック」のイベントで会ったのが最初かな。それでついこの前、Facebookで「フィッシュマン」のBGMをセレクトしたって投稿を見たところやったんよ。音楽シーンのなかでもけっこうとんがった、エッジィな人よね。若い世代でも、音楽好きはチェックしてるんじゃない? 今流れてるTEIさんの「TECHNOVA」、うちの娘もお気に入りよ。 世代も全然違うのに、色褪せてないってことよね。音も味も〝変わらない鮮度〟って大事!(笑)
——フィッシュマン、実は初めてのご来店とか?
深町 そう、もちろん名前は聞いたことあったけど、来るのは初めてやけん、めっちゃ楽しみよ。何食べたらいいと?
——おすすめのメニューをいくつかピックアップしてます。まずはこの「元祖!階段刺身盛り合わせ(味あり)」からどうぞ。
深町 おお! これはバリバリ写真映えするね。すごい迫力、ステージそのもの。昭和な例え方すると、『夜のヒットスタジオ』(※2)みたいな階段(笑)。まさにエンターテイメントやん!
——じゃあそこで深町さん。ズバリ、刺身を食べる時のBGMベスト3は?
深町 えっ、いきなり難題やない?! う~ん……そりゃあ、レア・グルーヴかな、レアやけん(笑)。でも、はたして刺身と合うかいな? 魚なら……サカナクション?
——うーん、苦しい! 「魚」「フィッシュ」がタイトルに入る曲はたくさんありますよね。
深町 魚と言えば「海」やね。「海」といえば「母」の象徴やろ、母なる海。あっ、それなら、アメリカのRaveena (ラヴィーナ、※3)ってシンガーが歌ってる「Mama」って曲かな。内容はタイトルそのまま、彼女がお母さんに向けたメッセージソング。「私が生まれたことで、お母さんが何かをあきらめたんじゃないか」「本来得るべきものを失ってきたんじゃないか」「でも、そうしてまで私を育ててくれてありがとう」っていう、感謝やリスペクトを込めたすごく深い歌なんよ。母も海も、命の源はそこだからね。転じて、フィッシュマンでは「ルーツをたどれば、あなたは母なる海からやって来たのね」ってしみじみ思いながら、刺身を食べる(笑)
——(笑)しょうがない、1曲で勘弁しましょう。ところで魚は何が好き?
深町 青物も白身も、うにも好き。この「クリーム豆腐雲丹と出汁ジュレ」なんて大好物よ。これ、混ぜたほうがいいんよね。あ、うまい! これはいいね。値段は……380円? このコスパはやばい!
——次はこちら。
深町 ん、これは、ショートケーキ?
——ふふふ。実は、これが「肉じゃが」なんです。
深町 え、これが肉じゃが?! うそやろ? あ、でもたしかに、食べたら肉じゃがの味がする。じゃがいもの食感がちゃんと残っとうのがいいね。このマヨネーズソースも濃厚でつい食べ続けちゃう。上にのってるこれは、さすがに見た目のままトマトよね?(笑) このメニューは、誰か連れてきて、何も言わずに食べさせてみたいね。
——喜んでいただけてよかった! この肉じゃが、フィッシュマンのホームページで作り方を無料で動画公開中です。けっこう簡単につくれますよ。
深町 驚愕の肉じゃがやった。でここにきて、BGMがミニマルになってきたね。鳥の声もお店の雰囲気にマッチしてる(KAKI NGEJUK CAPUNG/RINDIKを聴きながら)。日本、アジア、東洋、西洋とボーダレスなセレクトやけど、どれもハイセンスで、ある意味グルーヴィーやね。
——次の料理は雲丹の炙り牛タン巻き「ベロチュー」でーす。
深町 おなじみストーンズやん!!
食と音楽の通奏低音 チャレンジとエンターテイメント
——そろそろシメですかね。シメといえばうどんですが、深町さん史上、ナンバーワンの1杯はどこ?
深町 そりゃ難しい質問やね~。それぞれに魅力があるけん。お気に入りの店はみんなあると思うけど、それだけの話じゃないし。それぞれのお店に行けば、食べたいメニューがある。たとえば「ウエスト」なら、ぼくが通う店舗限定かもしれんけど決まって「いわし天」。「牧のうどん」に行ったら、あの甘い味つけの肉うどんを食べたくなるっちゃんね~。「資さんうどん」は「かしわ汁うどん」の大ファンやったのに、この前行ったらなくなっとって……。そのことをFacebookで投稿したら、佐藤社長とつながってる知り合いが社長に直接連絡してくれて、今度お目にかかれることになったんよね(笑)。
——メニューには焼うどんがありますよ。焼きそばの人気店「バソキ屋」がプロデュースする小倉「博多焼うどん吟麦」を、なんとココで味わえるんです。
深町 それはうれしいね! 焼うどんは、子どものころよく食べよったんよね。おふくろがよく作ってくれよった。すきやきの締めは絶対うどんやったね。
——土鍋ご飯もおすすめです。熊本産ヒノヒカリの玄米を、店で精米してるんですよ。土鍋は三重の伊賀焼窯元「長谷製陶」のものを使ってます。
深町 金目鯛と茗荷、こりゃうまいやろう! 金目鯛、ほくほくやん。焦げ具合もいいね。麺にご飯に、まだまだいっぱい締めメニューがあるね。デザートも食べないかんのに! どのメニューもほんとにおもしろいね。創作の楽しさ、エンターテイメント要素が強い。
——More digs, more good vibes.~いつも一歩先の世界を~が店の新しいブランドコンセプトなんです。どんどん新しいことに挑戦したいな、と。
深町 挑戦といえば、総合プロデューサーを務めてる「福岡ミュージックマンス」も、今年は新しいチャレンジの1年やね。食と音楽って、どちらもエンターテイメント。飲食店だと、ただ満腹にさせるだけじゃなくて、いかに楽しんでもらうかのおもてなしやもんね。福岡は飲食業が活発で、オーナーさんや飲食に携わる方々が個性的よね。音楽も、作り手の個性が現れる。ポジティブな意味で、良いものを取り入れて自分のものに変えていく文化も共通してる。通奏低音じゃないけど、食と音楽って通じるものがあるね。
(注釈)
※1 Deee-Lite(ディー・ライト)……1987年にアメリカ・ニューヨークで結成されたハウス/ダンス・ミュージック・グループ。その後TOWA TEIが参加して90年にデビュー。
※2 夜のヒットスタジオ……1968年11月から1990年10月までフジテレビ系列(FNS)で放送された音楽番組のシリーズ。通称『夜ヒット』『ヒットスタジオ』とも呼ばれた。
※3 Raveena (ラヴィーナ)……ニューヨークで活動するインド系アメリカ人R&Bシンガー。「Mama」はデビューアルバム『Lucid』中に含まれている。
深町健二郎(ふかまち・けんじろう)
1961年福岡市生まれ。9歳より音楽に目覚め、大学時代はロッカーズ(俳優の陣内孝則氏が在籍)のギタリスト谷信雄氏と共に「ネルソープ」を結成。日本初のネオアコバンドとして、新宿ロフトや原宿クロコダイルなどで活動。帰福後、ソラリアプラザイベントプロデューサーに抜擢され、屋内初の飾り山笠やアジアのカルチャーミックスイベントなどを手掛ける。1989年よりスタートメンバーとして「ドォーモ」(KBC)出演。現在も「アサデス。九州・山口」(KBC)、「オトナビゲーション」(RKBラジオ)、「オトナマチアソビ」(LOVE FM)など、TVやラジオ番組へ多数出演。その一方で、音楽・イベントプロデューサーとしても活動を続け、1998年からは糸島市で毎年開催される「Sunset Live」の共同プロデュース・MCを担当。また、9月の福岡を毎週音楽フェスが開催される1ヶ月とする「福岡ミュージックマンス」を総合プロデュース。ほか、執筆活動や日本経済大学経営学部芸能ビジネスコース教授。公益財団法人福岡文化芸術振興財団理事。音楽を中心にエンターテイメントの力で福岡の街を盛り上げ、その魅力を全国や世界に伝えるべくマルチに活動中。